東京天使病院看護部 天使のつぶやき
2024.12.09
第46回 尊厳について

看護師になってすでに40年以上が経つ。

その間、許せない・・・と思うことは何度もあったが、中でも尊厳のない看護は本当に嫌いだし、受け入れられない。

 

私は新潟県佐渡島の出身である。今から10数年前、大好きだった祖母が島の小さな療養型病院で亡くなった。

帰省する度に母と病院へお見舞いに行ったが、シーツも寝巻も汚れており、握った手はぬるぬるとして悪臭を放っていた。おそらく清潔ケアも更衣もほとんどできていなかったのだろう。膝を骨折して母の介護を断念した母は、ことあるごとに「自分がこんなにならなければ、まだまだ家で見てあげられたのに・・・」と悲しそうにつぶやいていた。

祖母の内服薬は数錠だったが、家族への説明もなく抗凝固剤を切られてしまった。亡くなる数か月前には右下腿は壊疽し、最後は炭化してしまっていた。そのことでも病院には不信感一杯だったが、島にはひとつの総合病院を除けば、高齢な祖母が入院できる病院はそこしかなかった。

祖母が危篤と連絡があったのは1月下旬の寒い夜のことだった。私は偶然にも帰省しており、母の運転で降りしきる雪道を病院へ向かったことを鮮明に記憶している。弟家族が先についており「もう息止まった」と・・・。大部屋であったが、祖母の耳元でで「おばあちゃん、お疲れさま」と声をかけると、「看護師から大部屋なので、静かにするように言われている、声をかけるな!」と弟から言われ、怒りが込み上げてきた。「最後の瞬間に家族は声もかけられないのか・・・」と。

ナースステーションで「私は看護師なので、家族で死後の処置をさせてほしい」と申し出ると、パールのピアスをつけた大柄な看護師が病室に来て、不機嫌そうに言葉も発せず処置カートを置いて出ていった。弟の嫁と姪っ子が介護福祉士であったので、暖房の効きすぎた病室で汗だくになりながら3人でエンゼルケアを行った。右下腿は真っ黒で、今にも崩れ落ちそうになっていた。「こんな足になって・・・」と泣きながら包帯を巻いた。

ナースステーションで処置用ワゴンを返して「お世話になりました」と声をかけたが、3人いた看護師は軽く会釈を返したのみで、慰めの言葉はなかった。

葬儀社が迎えに来て、ベッドからストレッチャーに移動する時も、遺体をエレベーターで下す時も、看護師のお見送りもなかった。

 

「尊厳って何だろう・・・」その言葉だけが頭の中で渦まいていた。

 

こんな経験もあって、前職の特養では「尊厳」について、看護師はもとより介護士の研修で繰り返し話をした。決して暇な施設ではなかったが、ご逝去する方はみな身ぎれいで、お顔は一様に穏やかだったことは私の誇りだった。長期間施設で過ごした入居者さまのご家族からは、たくさんの謝辞を頂き、泣きながら抱き合ってお別れをした。花束を胸に抱き、正面玄関から何人ものスタッフに見送られて出棺する様子は、今でも目に焼き付いている。

 

病院でのご逝去はどうだろう・・・?

7年ぶりに病院に戻ってきて、人の最期の時間の流れや質が施設とはあまりに違いすぎて戸惑っている。施設であっても病院であっても、人が最期を迎えていることには違いない。そこには最大限の「感性と想像力」があるべきではないのか・・・?そしてもっと言えば、愛や優しさや感謝の気持ちは、いくら看護師の仕事に慣れたとしても、決して忘れてはいけないものだと思う。

 

看護・介護職はどんなに忙しくても真摯に向き合わなければならない瞬間がある。

 

看護部長である私自身、まだまだスタッフに伝えきれていなことがある。そして人の最期の時間を大事にできるような、心のゆとりを持てる体制作りもできていない。

 

私にとって、それは今何より急務だと強く感じている。

 

 

看護部長 本間久美子

 

 

 

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