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ずいぶん前の出来事だ。
250床ほどの民間病院で師長代行をしていた頃だったと思う。病名は思い出せないが、気管切開でレスピレーター管理をしている女性の入院患者さまがいた。痰からMRSAが検出されていたため、個室隔離でガウンテクニックを行っての入室だった。(当時は今とは感染対策が違っていたことを理解していただきたい。)
50代半ばだったかと思うが、レスピレーターながら意思疎通は可能だった。病気の影響か薬の副作用か下痢が続いており、排便の度に10分~15分おきにナースコールがあるため、ナースたちはその部屋の受け持ちとなると、オムツ交換の多さにうんざりした表情を浮かべ、悪態をついていた。
2人の娘さんが毎日交代で面会にいらしていたが、ある夜勤の晩、ナースコールで呼ばれてフル装備でその方の部屋に入ると、上の娘さんが「今日は本間さんが夜勤ですか?」と聞いてきた。「そうです」と答え、その患者さまに「○○さん、今晩はよろしくお願いしますね!」と伝えると、彼女にっこりしながらうなずいてくれた。娘さんが「本間さんでほっとしました。他の看護婦さんは、便が出て呼ぶと、視線を合わせることもなく、オムツだけ変えて不機嫌な顔で出ていくようで、母がナースコールを押すことをとても遠慮しているみたいなんです」と言ってきた。複雑な気持ちだった。
私は特別優秀な看護師でも、優しい看護師でもない。もともと意地っ張りなところがあり、こと排泄について患者さまに嫌な思いをさせることは、看護師としてのプライドが許さないだけだった。私にとっても、重症患者を何名も受け持ち、新人の指導をしながら40人の患者を守らなければならない夜勤は相当厳しかった。ただ嫌な顔でオムツ交換をするのは、自分に負けるようでどうにも悔しかったのだ。本当にその患者さまを思ってのことだったのかどうかは、今となっては疑問だ。
その女性は私が知る限り、レスピレーターから離脱して退院した数少ない患者さまとなった。
それから2年ほどたったある夏の日、中野ブロードウェイをふらふらと歩いていた私に、ある小太りの女性が「本間さん!」と声をかけてきた。誰か思い出せなかった私に「私○○病院でお世話になった○○です!」と・・・。驚いた。レスピレーターの女性だったのだ。当時はやせ細っていたが、すっかり元気になり、同じ人には見えなかった。
彼女は「いつか本間さんに会ったら渡そうと思って、ずっと持っていたの」とバッグから手編みのピンクのマフラーを取り出し、私に渡してくれた。(おおよそそのピンクは私に似合わない色だったが・・・)うれしかった・・・。もっとうれしかったことは、彼女の長女が看護学校に通っていると聞いたことだった。「私が入院していた時に、本間さんがいつも笑顔でオムツを変えてくれたことを覚えていて『自分もあんな看護師になりたいと思った』と言っていた」と話してくれた。
自分の意地でやっていたことを、こんな風に受け取ってくれた人がいたことに戸惑った・・・。その時のマフラーは、これまで一度も使ったことはないが、今も大切にしまってある。
看護師をやめられない理由・・・それはこんな出来事が何度もあったからだ。
看護師は決して楽な仕事でも楽しい仕事でもない。しかしやりがいはある。99%が苦しいことばかりだったとしても、後の1%の奇跡のような出来事で、苦しかった99%は吹き飛んでしまう。そんな仕事のように思う。
我が天使病院のナースも、毎日ひたむきに患者さまやご家族と向き合っている。どんなに忙しくても笑顔でいれくれる彼女、彼らに私は救われている。口には出さなくても、きっと私と同じような体験をしているナースも多いことだろう。
日々無意識でしていることが、ひとりひとりの患者さまやご家族の支えになっていることもある。つらくなったり立ち止まりそうになることも多いと思うが、そんな時は、自分の支えとなった出来事を思い出して、また歩き出してほしいと願う毎日である。
何だか自慢話のようになってしまい恐縮・・・。
看護部長 本間久美子
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