東京天使病院看護部 天使のつぶやき
2024.03.18
第8回 初心に帰る

「初心に帰る」この年まで生きてくると、初心に帰ることが難しい。というより初心が何だったかも思い出せなくなってくる。

看護学生の頃も、看護師になってからも「どんな看護師になりたいか?」とよく聞かれ、また文章にも書いた。いったいどんな看護師になりたいと書いたのだったっけ・・・。

 

私は決して品行方正な看護学生ではなかった。看護学校の教務が嫌いだったのだ。理不尽だと思うことがあると相手かまわず生意気な口をきいた。教務にとっては本当に扱いにくい学生だったに違いない。振り返ってみれば、よくこんなわがままで自分勝手な学生を最後まで見捨てず導いて、看護師にしてくれたものだと思う。今となってはただただ感謝しかない。

そんな私だったが、実習は好きだった。基礎実習で最初に受け持った子宮がんの高齢女性の名前は今でも覚えている。笑わない方だった。3週間毎日体を拭き、食事介助をし、トイレや散歩に同行した。実習最終日に何をしてほしいかと尋ねると「髪を洗ってほしい」とのこと。彼女をストレッチャーに乗せ、洗髪台で汗だくになって髪を洗ってドライヤーで乾かしベッドに戻ってもらった。ストレッチャーを片付けて病室に入ると、彼女は白髪を両脇で三つ編みにたらしベッドに座っていた。「駄々っ子みたいでしょ?」と私に向かって初めて笑った。私は笑いながら泣いてしまった。

多分私が看護師になることを強く意識したのはこの時だったと思う・・・。実習が終わりしばらくたってお見舞いに訪れたが、彼女は家族に看取られることもなくひっそりと亡くなったことを聞かされた。

病院を出た帰り道、街路樹の桜が満開だった。涙がこぼれそうになるのをこらえて桜の花を見上げていたことを覚えている。

 

今でも毎年桜の季節になると彼女のことが思い出され、私は緊張感とともに自分自身を振り返る。

あの頃と同じ気持ちで患者さまやご家族に向かい合えているだろうか・・・?毎日の仕事はおざなりになっていないだろうか・・・?日々精一杯自分のできることをしているだろうか・・・?

40年以上たった今でも彼女の笑顔は私を初心に帰してくれる。

今年ももうすぐ桜が咲く・・・初心に帰る季節がやってくる・・・。

 

 

看護部長 本間久美子

 

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